語りびとたちの記録
「艦砲ぬ喰ぇー残さー」
2006年5月の語り合いの記録
ウシさん(85)・カマドさん(82)の語り合い
(6人グループのうち3人の対話を抽出)
※登場人物はすべて仮名です
ウシさん(85)は、南部の糸満近くの壕(ガマ)で家族を失った。
母親が息を引き取る瞬間のことを、70年間、誰にも話せなかった。
「母が水を欲しがっていた。でも私には何もできなかった。ただ手を握っていることしかできなくて……」
語り始めると声が震え、何度も言葉が止まった。
隣に座っていたカマドさん(82)が、静かに口を開いた。
「私も同じ壕にいたかもしれない。糸満の近くの壕で、私もお母さんの手を握っていた。水を探しに外に出た兄が、そのまま帰ってこなかった」
二人はしばらく無言だった。
やがてウシさんが言った。
「あなたも……そうだったんですか」
「はい」とカマドさんは答えた。
「ずっと、なぜ自分だけ生き残ったのかと思ってきた」とウシさんは続けた。
「艦砲ぬ喰ぇー残さー」とカマドさんがつぶやく。
♬(参加者の一人が「艦砲ぬ喰ぇー残さー」を歌う。途中からカマドさんも一緒に口ずさむ)
「でも今日、あなたの話を聞いて……私だけじゃなかったんだと思えた。それだけで、少し楽になった気がします」
カマドさんは小さくうなずいた。
「話せてよかった。70年、言葉にならなかった、けれどさ」