語りびとたちの記録
孫に話せた日のこと
2014年9月の語り合いの記録
ツルさん(87)・カズさん(80)の語り合い
(6人グループのうち3人の対話を抽出)
※登場人物はすべて仮名です
ツルさん(87)が話し始めたのは、語り合いも後半に差し掛かった頃だった。
「先月、孫に話したんです。沖縄戦のことを」
場がすこし静まった。
「学校で沖縄戦のことを習ってきてね。帰ってきたとたん、ランドセルも下ろさずに『おばあ、戦争の話、聞かせて』って言うわけさ。今まで孫には話せなかったのに……なぜかその時は、話せた。泣きながら、つっかえながら、それでも最後まで話した」
「お孫さんはどうだった?」とカズさん(80)が聞いた。
ツルさんはすこし間を置いた。
「最初はね……うまく受け取れていなかったと思う」
「そうだったの」
「話しながら横を見たら、孫がきょとんとした顔をしていてね。目が泳いでいるというか。まだ小学校三年生だから、私の話がどこまで届いているのか、正直分からなかった。途中で、話すのをやめようかとも思った」
カズさんは黙って聞いていた。
「でも……やめなかった。最後まで話した。話し終わった時、孫はしばらく黙っていた。何か言葉を探しているような顔をして。それから、『おばあ、話してくれてありがとう』って言った。小学校三年生が、そんなことを言うんですよ」
カズさんの目が潤んだ。
「ありがとう、なんて言葉、私は期待していなかった。だから余計に……胸に来てね」
ツルさんはそこで一度、目頭を押さえた。
「その後もね、孫の様子をずっと見ていたんです。重たい話をどう受け取ってもらえたのだろうと、気になって。そしたら次の日の朝、孫が学校に行く前に、仏壇の前に立ってウートートーしていた(手を合わせていた)。いつもはそんなことしない子なのに。私が話した中に、戦争で亡くなった家族のことも出てきたから。その子たちのことを、思ってくれていたのかもしれない」
カズさんが静かに言った。「言葉にはならなくても、ちゃんと届いていたんだはずね」
「そうなのかもしれないさ。子どもだから、うまく言葉にはできない。でも……感じ取るものはあったんだと思う。あの仏壇の前に立つ後ろ姿を見て、私はそう思った」
ツルさんは少し遠くを見るような目をした。
「その晩、不思議と眠れたんです。長い間、戦争の夢を見て夜中に起きることが多かったのに。話してよかったと思った。孫が受け取ってくれたから……バトンを渡せた気がして」
「バトン」とカズさんが繰り返した。
しばらく、その言葉を噛み締めるように黙っていた。
「……私も孫に話そうかな。ずっと(孫に戦争の話をすることを)ためらっていたけれど」
「怖くても、話してみるといいかもしれない」とツルさんは言った。「言葉で返ってこなくても、子どもはちゃんと感じ取っている。受け取ってくれる子が、きっといる」