語りびとたちの記録
加害者だったかもしれない自分
2010年8月の語り合いの記録
トミさん(80)・マツさん(83)・サダさん(78)の語り合い
(6人グループのうち3人の対話を抽出)
※登場人物はすべて仮名です
その日の語り合いは、夏の盛りだった。
窓の外にはギラギラとした沖縄の陽光が広がっていたが、部屋の中には静かな時間が流れていた。
トミさんは、話し始めるまでに長い時間がかかった。
何度か口を開きかけては、閉じた。膝の上で手をぎゅっと握り合わせ、どこか遠いところを見ていた。
やがて、ぽつりと言った。
「私は……壕の中で、泣き止まない赤ちゃんのそばにいた」
声が震えていた。
「赤ちゃんを黙らせろと、周りの大人たちが言い始めた。敵に気づかれる、みんなが死ぬ、と。私は何もできなかった。止めることも、逃げることも。ただそこにいるだけだった。あの赤ちゃんが……」
言葉が続かなかった。
トミさんの視線は、膝の上に落ちたままだった。
沈黙が場を包んだ。
マツさんが静かに言った。
「あなたは、その時いくつだったの」
「十三でした」
「十三の子どもに、何ができたというの」
マツさんの声に、責める色は全くなかった。ただ、確かめるように、そう言った。
「でも……」とマツさんは一呼吸置いた。
「あなたが今もその子のことを覚えている。65年経っても、忘れずにいる。誰も覚えていないかもしれないその子を、あなただけがずっと覚えていた。それはきっと、その子にとって……」
マツさんも、言葉に詰まった。
それまで黙って聴いていたサダさんが、ゆっくりと口を開いた。
「私も、似たようなことがあった」
場の空気が、また変わった。
「壕の中で、おじいが苦しそうにうめいていた。傷の痛みで、声を出さずにはいられなかったのだと思う。周りの人が、静かにさせろ、と言い始めた。私の父が……おじいに近づいていった。私は目をつぶった。それからおじいの声が聞こえなくなった」
サダさんはそこで一度、深く息を吸った。
「あれから何十年も、父のことを恨んでいた。でもある時、父が泣いているのを見た。縁側でひとり、声も出さずに泣いていた。父も被害者だったのだと、その時初めて思った。それでも、心の整理は今もついていない」
トミさんが顔を上げた。
二人の目が、初めてまっすぐに合った。
「あなたも……そういうことがあったんですか」とトミさんは言った。
「あった」とサダさんは答えた。
「だからあなたの話を聴いた時、他人事ではなかった。あの戦争は、ごく普通の人を、そういう場所に追い込んだ。あなたも、私の父も、十三歳のあなたも、みんなそこに追い込まれた。誰かを責めるとしたら……責められるべきは、あの戦争だと思う」
しばらくして、トミさんが言った。
「この話、初めて口に出せた。ずっと、胸の中に石のように沈んでいたものが……今日、少しだけ動いた気がします」
マツさんが言った。
「話してくれてよかった」
「私も」
とサダさんが続けた。
「あなたが話してくれたから、私も言えた。何十年も、誰にも言えなかったことが」
窓の外では、蝉が鳴き続けていた。